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京都大学吉田寮旧棟(現棟・食堂棟)を「生きた建築文化財」として
未来に継承することを求める請願書

京都大学吉田寮は1913年(大正2年)に建設された、国内で最古級の学生寮です。京都大学のシンボルである時計台の竣工よりさらに10年以上遡る、歴史ある建物です。ほぼ創建時の姿を保つ旧棟は、木造2階建ての現棟と平屋建ての食堂棟よりなり、和洋折衷様式をもつ近代の大規模建築として高く評価されています。また現棟の一部と食堂棟は、旧制第三高等中学校、のちの第三高等学校(三高)の寄宿舎から移築されたり、建材が転用されたものであることから、その起源は1889年(明治22年)7月に遡り、京都大学に現存する最古の建物であることが判明しています。さらに吉田寮は、建設以来100年以上にわたり学生寄宿舎として使われ続けてきた、「生きた遺産」(リビング・ヘリテージ)です。明治期以降の京都における高等教育の歴史を記憶する建物は、市民にとっても貴重な文化遺産です。


しかし、吉田寮の歴史的建造物としての価値が認識されはじめたのは 2000 年代にはいってからのことでした。背景として文化財保護法の改正により、近代の建築が広く文化財として認知されるようになったことがあります。2006(平成18)~2008(平成20)年度の「京都府近代和風建築総合調査」では、吉田寮も調査対象に選定されました。2015年(平成27年)には建築史学会と日本建築学会近畿支部から「吉田寮は建築史的に見て稀少な存在」「近代日本の歴史的建築資産としてかけがえのない存在」として、当時の山極壽一総長に対して保全活用を求める要望書が提出されています。これらの要望を受け、京都大学も2019年(平成31年)の「吉田寮の今後のあり方について」の中で、「現棟の建物としての歴史的経緯に配慮する」と明記しています。


ところが京都大学は今年 4月14日、吉田寮(現棟)を建て替える方針をホームページ上で明らかにしました。「建物としての歴史的経緯に配慮する」という従来の方針も繰り返されていますが、建築物の保全についてどのように検討しているのか、何も説明がありません。一方、「建て替えにより創出される敷地活用」という表現で、現棟を解体し、完全に更地に戻すことを示唆しています。「創出」という言葉からは、文化遺産を損失することに対する認識を読み取ることができません。


歴史的建造物は、一度失われれば二度と取り戻すことはできません。


京都大学の方針では、建て替えの理由として「老朽化による耐震性の不足」「学生の生命と安全」が強調されています。しかしながら、現棟が直ちに退去が必要なほど危険な状態にあるという大学の主張は、耐震性が争点のひとつとなった裁判の一審判決で退けられています。また耐震工事では回復不能という調査結果も示されていません。老朽化した木造住宅は解体するしかない、というのは古い考えです。たとえば京都市内には築150 年を超える京町家もあり、国の「重要文化財(重文)」に指定されながら、住み継がれています。一方、歴史的建造物などを活用しながら守ることに重きをおいた「登録有形文化財」の制度もあります。この制度の下で伝統的町家や古民家を改装して活用している例も数多く見られます。京都大学はまた、「現代の学生生活に適した」環境を整備するとしています。「登録有形文化財」では内装の改変や、外観の一部の変更についての規制がゆるやかで、現代の生活にあわせた高度な利用が可能です。私たちは、現棟を食堂棟とともに「登録有形文化財」として登録し、歴史的意匠を生かしつつ活用しつづけることを京都大学に提言します。


京都大学ではすでに学内の多くの建造物が登録有形文化財に登録され、その存在価値を高めてきました。吉田寮に隣接する楽友会館(1925年竣工)もそのひとつです。東山連峰の大文字や吉田山を背景に、吉田寮と楽友会館という対照的な近代建築が並び立つ吉田南構内は、歴史の変遷を感じる良質なキャンパス空間を形成しています。学内の建築資産を生かして地域の風致に貢献することは、京都の豊かな自然・歴史的景観に囲まれて発展をとげてきた大学の責務でもあります。


私たちは、古くなった寮舎をスクラップ・アンド・ビルドで建て替えるか、そのまま使い続けるかの二者択一ではなく、歴史的価値を生かした改修(リノベーション)によって再生するという、「第三の道」を提案します。そのために、


吉田寮現棟について、すみやかに耐震補強と補修工事を行い、建物の劣化を防いで下さい。

歴史的価値の高い旧棟(現棟と食堂棟)の建築を「登録有形文化財」に登録し、保全・活用計画をたてて下さい。

現棟は建築構造や建材を生かしながら改修し、「生きた建築遺産」として未来に継承することを求めます。


現代社会では環境負荷の低減のため、木造建築の価値が大きく見直されています。吉田寮には今では入手困難な良質の木材がふんだんに用いられており、これらを廃棄せず利用していくことは、持続可能社会のありようを示すことになります。吉田寮では 100 年以上前の創建時にすでに古材の再利用を行っていました。建物が古くなったから解体撤去するのではなく、再生して使い続けることは、循環型社会をめざす世界の潮流です。私たちは、国際的に卓越した研究大学をめざす京都大学が、教育・研究だけでなく、歴史ある建築を未来へ継承し、環境に配慮したキャンパスを創造することにおいても世界をリードする大学となることを期待します。


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